原単位についての覚え書き その6 ”スチームエンタルピーの基準温度”
蒸気表によればスチームのエンタルピーは 0.01℃(273.16℃)にて 0kJ/kg を示しており、スチームエンタルピーの基準温度はほぼ 0℃ と言える。
熱収支計算においての基準温度は必ずしも0℃ではなく、室温に近い25℃を選定する場合も多い。つまり、言い方を変えると、エンタルピー計算では都合の良い温度を基準温度にしても何ら差し支えがないのである。
ボイラーでは供給された水(ボイラー給水)が加熱蒸発されてスチームとなるのであるから、ボイラーの熱効率を正確に記述すると、
スチーム発生に必要な熱量(kJ/hr)={発生スチームのエンタルピー(kJ/kg)-ボイラ給水のエンタルピー(kJ/kg)}×スチーム流量(kg/hr)
前回、{発生スチームのエンタルピー(kJ/kg)ーボイラ給水のエンタルピー(kJ/kg)}として、0℃基準のスチームエンタルピー(2800kJ/kg)を採用しているので、スチーム原単位計算ではボイラ給水温度を0℃として計算したことになる。
一般にボイラー給水はボイラーに供給される前に脱気器で水中の酸素を除去しており、その処理の際にボイラ給水を加温しているので、実際のボイラ給水温度は少なくても100℃以上である。そこでボイラ給水温度を100℃としてスチーム原単位をもう一度計算してみよう。ただし、発生スチーム条件などは前回と同じとしている。
発生スチーム:圧力4MPaの飽和蒸気、2800kJ/kg
ボイラ給水温度:100℃、419kJ/kg
エクスポート量:10t/h
ボイラー熱効率:90%
よって、
スチーム発生に必要な熱量(kJ/h) = {発生スチームのエンタルピー(kJ/kg)-ボイラ給水のエンタルピー(kJ/kg)}×スチーム流量(kg/hr)
= {2800-419}×10,000kg/h = 23.81GJ/hr
ボイラーが設置されるプラントでの製品生産量を前回と同じく一日2000トンとしますと、ボイラー効率を考えたエクスポートスチームの原単位は、
スチーム原単位 = (23.81GJ/H÷0.9)×24hr÷2000ton/day = 0.317GJ/ton
つまり、単位製品生産量(ton)当たりのスチーム原単位は0.317GJとなり、前回のスチーム原単位0.373GJ/tonより15%低減した。
しかし、ボイラーを含むスチームシステムに供給される水(ボイラ給水ではない)の温度は常温であり、その水を常温25℃から100℃まで加熱してボイラーに給水するのであるから、ボイラ給水温度100℃のエンタルピーを使用してスチーム原単位を計算した結果には、常温25℃から100℃までの加熱分が考慮されていないことになる。
つまり、スチーム原単位を計算する際に基準とする温度やエンタルピーをいくらにするかは一概に言えない。つまり、ケースバイケースなのである。
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