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2009年9月

2009年9月24日 (木)

システムインテグレーション その3 ”アンモニアとメタノール”

プラントの予期しない運転停止は経済的な損失を招くだけではなく、プラントの寿命を損なう好まざるアクシデントです。

もし、プラントの運転が続行できないような状況に出くわした場合でも、オペレーターはもちろんマネージャークラスも運転継続を優先します。一度運転を停止すると、製品出荷ができなくなり売り上げが減るだけではなく、再スタートまでのタイムロスと経費負担を恐れるからです。そのためにしっかりとした運転マニュアルを整備し、日常的にオペレーターへの訓練が欠かせません。さらに、万が一を考えて安全にプラントを停止させるようにインターロックシステムを構築します。

前回、”アンモニアプラントとメタノールプラント”のインテグレーションのお話をしましたが、アンモニアプラントの運転停止により副原料である炭酸ガスの供給が停止しますので、メタノール生産量は約20%減少します。また、炭酸ガスの供給場所はガス化工程とメタノール合成行程の間にありますので、原料である天然ガス量が変わらない限りガス化工程の運転状態は大きくは変動しません。また、メタノール合成工程の設備容量はガス化工程に比べ約10倍と大きく、炭酸ガスカットによる合成ガスの組成変動の影響は短時間では現れませんので、その間で運転による対応が可能となります。

しかし、ここに予期せざる事態が起きました。

それは余剰水素の復活です。前回、説明いたしましたように天然ガスを原料とするメタノールではカーボン源が不足するために水素が余剰となります。この水素を水蒸気改質炉で燃料として使用していましたが、アンモニアプラントから炭酸ガスをインポートすることで、余剰水素はメタノールに変化していたのです。しかし、炭酸ガスの供給が停止しますと、余剰水素は再び燃料システムに流入します。

しかもこの余剰水素が有する熱量は水蒸気改質炉に必要な熱量の約90%に匹敵します。もし、余剰水素が溢れてきたらどうなるでしょうか?

この続きは次回に・・・。

2009年9月21日 (月)

システムインテグレーション その2 ”インテグレーションのリスク”

前回、「全体のエネルギー消費量を削減するための方策について説明する」と予告いたしましたが、インテグレーションがもたらすリスクについて説明しておきます。

リファイナリー・コンプレックスやエチレンプラントでは、上流設備で生産した製品が下流設備の原料となります。これも一種のインテグレーションです。しかし、両設備間に貯蔵タンクなどのバッファーが設置されている場合には、上流設備の異常がただちに下流設備への原料供給停止に直結していません。つまり、このような”緩いインテグレーション”では、上流側の運転停止により製品が一時的に下流側に供給されなかったとしても大きな混乱はなく、インテグレーション崩壊によるリスクは小さいのです。

これとは対照的なのが”アンモニアプラントと尿素プラント”のインテグレーションです。尿素の原料はアンモニアと炭酸ガスで、両方ともアンモニアプラントから供給されます。アンモニアは特殊なタンクに貯蔵されますので、アンモニアプラントの一時的な運転停止は下流設備である尿素プラントに大きな影響を与えることはありません。しかし、炭酸ガスの供給停止はダイレクトに尿素生産をストップさせますので、アンモニアプラントと尿素プラントは”一心同体”の関係にあります。

この二つの例とは異なるのが”アンモニアプラントとメタノールプラント”のインテグレーションです。メタノールプラントの原料は天然ガスですが、主成分であるメタン(CH4)と添加されるスチーム(H2O)と製品であるメタノール(CH3OH)を比べるとわかりますように水素(H2)が余剰となります。この水素はメタノールプラントの心臓である水蒸気改質炉にて燃料として再利用されています。そこでアンモニアプラントから必要量の炭酸ガスをインポートすれば、同じ天然ガス量からさらに多くのメタノールを生産することが可能となります。

このインテグレーションではアンモニアプラントの運転停止による影響は副原料の炭酸ガスの供給停止に限定されますので、インテグレーションによるリスクは小さいように見えます。しかし、実際にはこのリスクは予想以上に大きなものだったのです。

この続きは次回にお話しします。

2009年9月14日 (月)

システムインテグレーション その1 ”インテグレーションの形態”

前回の予告と変えて、インテグレーション(統合とか一体化)の形態について説明したい。

インテグレーションには幾つかの形態がある。一つはプラントの中核であるプロセスプラント(製品製造に関わる設備や装置)とユーティリティー設備(用役設備)とのインテグレーション、もう一つはプロセスプラントと他のプロセスプラントとのインテグレーション、これ以外に複数のプロセスプラントユーティリティーとのインテグレーションがある。

その一例としてリファイナリー・コンプレックス(石油精製コンプレックス)がある。このリファイナリー・コンプレックスではガソリンや軽油、そしてLPGガスなど多くの製品が生産される。また下流の設備では残った重質分からさらにガソリンや重油などが生産される。

このリファイナリー・コンプレックスには脱硫用の水素ネットワークやスチームネットワークが構築されており、製品からユーティリティーまでの巨大なインテグレーション・システムが存在する。

このような巨大なコンプレックスではないが、無機化学(肥料)分野でもアンモニアと尿素プラントやアンモニアとメタノールプラントのインテグレーションが考えられており、すでに実用化している。これらのインテグレーションの媒体は炭酸ガスである。また、アンモニアプロセスの中にメタノールプロセスの一部を組み込み、需要の変動を併産でカバーする試みも行われている。

次回は私が経験したインテグレーションについて説明し、全体のエネルギー消費量を削減するための方策を考えてみたい。

2009年9月11日 (金)

原単位についての覚え書き その8 ”システムインテグレーション”

今まで原単位について色々述べてきましたが、今回8回目で「原単位についての覚え書き」を終了し、次回からは表題を「プラントのシステムインテグレーション」に変えて連載することにします。

ここで述べるシステムインテグレーションとは、多くのシステムを跨いで熱回収が行われることにより、原単位が大幅に改善するようなインテグレーション(統合)を意味しています。これとはコンセプトが異なりますが、より高度なインテグレーションも存在します。これについても回を追って説明したいと考えています。

原単位を改善することにより原燃料消費量を減らすことが出来、ひいては地球温暖化ガス削減に繋がるのですから、システムインテグレーションについてしっかりと学習しましょう。

システムインテグレーションの1回目は、熱回収システムインテグレーションの効果について説明します。まず、考えられる効果は以下の三つです。

  1. 原燃料原単位を改善出来る。
  2. ユーティリティ消費量を減らすことが出来る。
  3. 設備コストを削減することが出来る。

この三つの効果の背景には共通項が存在します。それは廃棄されるエネルギー量の減少です。

投入される原燃料や電力などのエネルギーが減少すれると、どういうことが起こるでしょうか?

燃料消費量が減少すれば排ガス量も減少します。熱回収量が増加すれば冷却水で廃棄していた熱量が減少します。

当たり前の話ですが、”熱回収システムインテグレーションを行うかどうか”、そして”行うことにより効果が上がるかどうか”を、まず判断することが重要です。そのためには何らかの判断基準が必要となります。その一つが、

  1. 廃棄されるエネルギー量が多くないか。
  2. 廃棄される熱の温度が高くないか。

次回はこの廃棄エネルギーについて考えてみましょう。

2009年9月 9日 (水)

原単位についての覚え書き その7 ”電力源単位の考え方”

プラントが必要とするユーティリティの中で一番重要なのは電力である。

その理由としては、

  1. 機器(回転機など)だけでなく、計装制御に必要不可欠である。
  2. プラントをスタートする際に、最初に必要なユーティリティである。
  3. 電力供給が停止した場合、つまり停電した場合のプラントへの影響(運転及びメンテナンス)が甚大である。

プラント運転に必要な電力は、周りを取り囲む地域、数千人から数万人規模の都市で消費する電力に匹敵します。そのために外部の発電所から専用の高圧線を引っ張って電力を供給してもらうか、プラント内に自家発電所を設けて必要量を確保します。

いずれの供給形態においても電力を消費するので、プラント原単位を計算する際には電力原単位を考慮しなければなりません。

例えば自家発の場合には、電力原単位は発電所で消費する燃料消費量をベースに計算します。この燃料原単位をプラントの原単位にプラスすれば良いのですが、外部から電力を供給してもらう場合にはどうすればよいのでしょうか。

プラント原単位を良く見せようとするならば、一日の電力消費量kWhを熱量換算(1kWh = 3600kJ)して製品生産量で割れば計算できます。具体的に数値で説明しますと、

  • 一日の製品生産量:1000トン
  • 電力消費量:1500kW

電力原単位 = 1500kW×3600kJ/kWh×24h÷1000 = 0.130GJ/トン

ところが電力を得るためにはガスタービン発電機やスチームタービン発電機などを使用しますので、本来であればこれら発電機の熱効率(25~40%)を考慮しなければなりません。つまり、先ほどの電力原単位は以下のようになります。ここで熱効率を30%にしました。

電力原単位 = (1500kW÷30%)×3600kJ/kWh×24h÷1000 = 0.432GJ/トン

貴方ならどちらの数値を使用しますか?

2009年9月 3日 (木)

原単位についての覚え書き その6 ”スチームエンタルピーの基準温度”

蒸気表によればスチームのエンタルピーは 0.01℃(273.16℃)にて 0kJ/kg を示しており、スチームエンタルピーの基準温度はほぼ 0℃ と言える。

熱収支計算においての基準温度は必ずしも0℃ではなく、室温に近い25℃を選定する場合も多い。つまり、言い方を変えると、エンタルピー計算では都合の良い温度を基準温度にしても何ら差し支えがないのである。

ボイラーでは供給された水(ボイラー給水)が加熱蒸発されてスチームとなるのであるから、ボイラーの熱効率を正確に記述すると、

スチーム発生に必要な熱量(kJ/hr)={発生スチームのエンタルピー(kJ/kg)-ボイラ給水のエンタルピー(kJ/kg)}×スチーム流量(kg/hr)

前回、{発生スチームのエンタルピー(kJ/kg)ーボイラ給水のエンタルピー(kJ/kg)}として、0℃基準のスチームエンタルピー(2800kJ/kg)を採用しているので、スチーム原単位計算ではボイラ給水温度を0℃として計算したことになる。

一般にボイラー給水はボイラーに供給される前に脱気器で水中の酸素を除去しており、その処理の際にボイラ給水を加温しているので、実際のボイラ給水温度は少なくても100℃以上である。そこでボイラ給水温度を100℃としてスチーム原単位をもう一度計算してみよう。ただし、発生スチーム条件などは前回と同じとしている。

発生スチーム:圧力4MPaの飽和蒸気、2800kJ/kg
ボイラ給水温度:100℃、419kJ/kg
エクスポート量:10t/h
ボイラー熱効率:90%

よって、

スチーム発生に必要な熱量(kJ/h) = {発生スチームのエンタルピー(kJ/kg)-ボイラ給水のエンタルピー(kJ/kg)}×スチーム流量(kg/hr)
= {2800-419}×10,000kg/h = 23.81GJ/hr

ボイラーが設置されるプラントでの製品生産量を前回と同じく一日2000トンとしますと、ボイラー効率を考えたエクスポートスチームの原単位は、

スチーム原単位 = (23.81GJ/H÷0.9)×24hr÷2000ton/day = 0.317GJ/ton

つまり、単位製品生産量(ton)当たりのスチーム原単位は0.317GJとなり、前回のスチーム原単位0.373GJ/tonより15%低減した。

しかし、ボイラーを含むスチームシステムに供給される水(ボイラ給水ではない)の温度は常温であり、その水を常温25℃から100℃まで加熱してボイラーに給水するのであるから、ボイラ給水温度100℃のエンタルピーを使用してスチーム原単位を計算した結果には、常温25℃から100℃までの加熱分が考慮されていないことになる。

つまり、スチーム原単位を計算する際に基準とする温度やエンタルピーをいくらにするかは一概に言えない。つまり、ケースバイケースなのである。

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