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2009年8月

2009年8月31日 (月)

原単位についての覚え書き その5 ”スチーム原単位”

前回、”スチームコスト”についての説明が中途半端に終わりましたので、今回は終わりまで詳細に説明しましょう。

このスチームのコストについて説明するに当たって、スチームを作るために必要なエネルギー量について説明します。ご存じのようにスチームはボイラーや廃熱ボイラーにて製造しますが、その際に使用されるエネルギー量は熱効率が既知であれば容易に計算することが出来ます。重油や天然ガスなどを燃料に、ボイラーでスチームを作る際の熱効率は次式で定義されます。

熱効率 = スチームエンタルピー(kJ/h)÷燃料熱量(kJ/h)

燃料消費量は上式で求めた燃料熱量を燃料発熱量で割って計算します。

燃料消費量(kg/h) = 燃料熱量(kJ/h)÷燃料発熱量(kJ/kg)

燃料の発熱量には高発熱量(GHV)と低発熱量(LHV)とがあり、ボイラーなどでは低発熱量を採用することが多いようで、熱効率は88%~92%となっています。

ここでボイラーから発生するスチームの一部をエクスポートするケースを想定し、スチームの原単位を計算してみましょう。条件は、

  1. スチーム条件:圧力4MPaの飽和蒸気
  2. エクスポート量:10t/h
  3. ボイラー熱効率:90%

スチーム(4MPa飽和蒸気)のエンタルピーは 2800kJ/kg ですから、熱効率から求めますと必要な燃料熱量は 3111kJ/kg(=2800/0.9)となります。つまり、エクスポートするスチームを作るために実際に消費する熱量は、

熱量 = 3111kJ/kg×10,000kg/hr = 31.11GJ/hr

となります。

また、このボイラーが設置されるプラントでの製品生産量を一日2000トンとしますと、エクスポートスチームの原単位は、

スチーム原単位 = 31.11GJ/H×24hr÷2000ton/day = 0.373GJ/ton

つまり、単位製品生産量(ton)当たりのスチーム原単位は0.373GJとなりました。

しかし、この原単位の計算は本当に正しいでしょうか?

2009年8月26日 (水)

原単位についての覚え書き その4 ”スチームコスト”

原料や燃料に使用される天然ガスやナフサなどの単価は国際価格(輸入価格)に基づき決定されます。つまり、海外から輸入される場合には輸入価格がベースになり、国内で生産される場合にはプラントへの供給価格がベースとなります。

ではユーティリティコストはどのように決定されるでしょうか?

一般的には、

  1. 原水や冷却水、水道水などの価格は、国内の供給価格がベースとなります。
  2. 電気は電力会社から供給価格がベースとなります。
  3. 窒素や水素などの価格は国内の供給価格がベースとなります。

しかし、スチームについては色々なケースがあり、ベースとなる価格が存在しませんので、プラント独自に決定しなければなりません。その理由は、プラントのスチーム供給システムに由来します。このスチームシステムには3種類があり、

一つは”スチームセルフ”、二つ目は”スチームインポート”、そして三つ目が”スチームエクスポート”です。この三つのシステムの特徴は、

  • スチームセルフ:プラント内で必要とするスチームをプラント内のパッケージボイラや廃熱回収ボイラで自家生産し消費する。
  • スチームインポート:プラント内で必要とするスチーム量がプラント内部でのスチーム消費量を上回るために、不足分を外部から受入れる(インポート)。
  • スチームエクスポート:プラント内で必要とするスチーム量がプラント内部で消費量を上回るために、必要とする外部にスチームの一部を送出する(エクスポート)。

”スチームセルフ”システムにおいては、スチームを生産するために燃料が消費されるので、燃料単価がわかっていれば原単位計算は単純である。しかし、”スチームインポート”あるいは”スチームエクスポート”の場合の原単位計算はどうすれば良いでしょうか?

2009年8月24日 (月)

”天然ガス価格” 原単位についての覚え書き その3

天然ガスは水素などの原料に使用され、その価格はほぼ原油と連動しています。

米国の井戸元価格(Wellhead price)は現在(5月)約3.5US$/1000ft3で、これは良く使われるUS$/MMBtuの数値にほぼ等しくなっています。

天然ガス1Nm3の発熱量は約9,000kcal、1000ft3は26.8Nm3に相当するので、1000ft3は26.8Nm3×9,000kcal = 0.957MMBtuとなる。(1Btu = 0.252kcal)

昨年、2008年6月から7月にかけては約10.6~10.8US$/1000ft3でしたので、現在価格は1/3まで下落したわけです。

この米国の天然ガス価格については、http://www.eia.doe.gov/oil_gas/natural_gas/info_glance/natural_gas.htmlにアクセスしてください。

もし、原料と燃料に天然ガスを使用するプロジェクトでは、この市況価格を参考にして価格を設定します。

2009年8月20日 (木)

原単位についての覚え書き その2

原単位競争の中で勝利するため、あるいは原単位を改善するためにはどうすれば良いのでしょうか?

原燃料の消費量を削減するために、いきなり物質収支や熱収支の計算をやり直すことは愚の骨頂です。まず、しなければならないこと、あるいは確認すべきことは、

  1. 原単位を構成する項目を確認すること:一般に原単位は製品量当たりの原料や燃料の消費量だけではなく、電気やスチームあるいは工業用水などユーティリティ消費量の合計です。項目に抜けがないかどうかを確認します。
  2. 原単位の単位を確認すること:項目毎に単位が違いますので、合計する場合の基準単位を確認します。例えば、原料が天然ガスの場合、単位は流量(kmol/h,Nm3/h,kg/h)あるいは熱量(kJ/h,kW)が多いのですが、エネルギーコスト($/kJ,$/GJ,$/MW)を使用する場合もあります。もし、原単位項目に電気消費量が含まれている場合には、天然ガスとの相性を考慮してエネルギーコストを使用することが多いようです。
  3. 各項目の重みを確認すること:2の「原単位の単位」に関連しますが、原単位比較のベースがエネルギーコストとした場合、原料と電気、それぞれの消費量に対し重みを付けることがあるようです。

以上の確認項目を見るだけでもわかるように、原単位の計算と評価には複雑な要素を含んでいます。

その背景にあるのは、原単位を構成する項目の「取引単価あるいは製造単価」と「入手の容易さ」にあるように思われます。

次回はこの「・・・単価」あるいは「・・・コスト」についてお話しします。

2009年8月18日 (火)

原単位についての覚え書き その1

原単位について先日、「プラントの品質は原単位により左右される」を公開いたしました。

この中で、”原単位とプラントの原単位は建設コストと同様に、客先がプラント建設にゴーサインを出すかどうかを判断する上で重要なポイント”と説明しましたが、もう一つ重要な役割があります。

それはプラントに採用するプロセスを決定する際の評価項目だからです。

プラント建設が公表されプロジェクトの見積仕様書がオープンになりますと、有力なエンジニアリングコントラクターがその見積仕様書に基づき見積書を作成します。その際に、保有しているプロセスをベースに単位製品量当たりの原料消費量やエネルギー消費量を算出し、原単位として客先に提出します。

客先は各社から提出された見積内容の是非を論じるために、あらかじめ評価項目を定めておきます。その項目毎にA社のプロセスは何点、B社のプロセスは何点、C社のプロセスは何点と点数を付け、各項目に重みを付加して全ての項目の点数を合計し総合点を算出します。それをもとにプロセス評価を決定します。

客先はこのプロセス評価を注意深く検討し、もし仕様書に逸脱している内容が見つかればエンジニアリングコントラクターに是正させるか、再検討を要求します。このようにすることで各社の見積書を同じ土俵に乗せることが出来、客観的なプロセス評価が可能となります。

つまり、見積書は一度出せば終わりではなく、出した後が本番なのです。つまり、数週間も数ヶ月もかけた競争(コンペティション)が始まるのです。

この間にプロセス評価を少しでも良くするために、最後の最後まで激烈な”原単位競争”が密かに各社間で行われます。この中心となるのがプロセスエンジニアであり、まさに胃が痛くなるようなきつい仕事です。

さて、この原単位競争に勝利するためにはどうすれば良いでしょうか?

次回は、そのあたりについてお話したいと考えています・・・。

2009年8月12日 (水)

”プラントの品質は原単位により左右される”

プロセスエンジニアリングの基本業務の一つに物質熱収支計算があります。

この収支計算ではプラントに入ってきた原料と出て行く製品+廃棄物の重量バランスと熱バランスを計算したもので、物質収支はマテリアルバランス(material balance)、熱収支はヒートバランス(heat balance)と言われています。

これ以外にエネルギー収支(エネルギーバランス)も計算され、そこでは原料や燃料だけでなく、ユーティリティ(スチーム、冷却水、電力)全てを考慮した収支計算を行います。

一方、企業決算などで利用されているバランスシート、つまり貸借対照表は企業内における資金の調達と運用の状況を示したもので、企業体質の改善や改革の必要性を判断したり、時と場合によっては企業存続の是非を問う物差しとなります。

プラントにおける物質収支と熱収支およびエネルギー収支により何が分かるでしょうか?

製品生産量当たりの原料消費量や燃料消費量を求めたり、同じく製品生産量当たりの廃棄物量やエネルギー消費量を計算することで三つの”出来る”が理解できるでしょう。

  1. 製品生産量当たりの原料消費量(原料原単位)から製品を作る上での無駄を探し出すことが出来る。
  2. 製品生産量当たりの廃棄物量から環境負荷を計算することが出来る。
  3. 製品生産量当たりのエネルギー消費量(エネルギー原単位)から燃料の無駄や熱回収システムの不備などを洗い出すことが出来る。

以上の理由から、プラントの原単位は建設コストと同様に、客先がプラント建設にゴーサインを出すかどうかを判断する上で重要なポイントになります。

そこで、プロセスエンジニアリングを実施する上での格言の最初は、

「プラントの品質は原単位により左右される」

2009年8月 9日 (日)

用役とユーティリティー

人体を一つのプラントとすれば、脳は制御システムで心臓や肺臓、あるいは肝臓などは反応器や蒸留塔などの主要機器に相当する。

すると、それ以外の肺呼吸器システムや血液循環システム、そしてリンパ腺などは差し詰め用役(ユーティリティー)設備に相当するのでないでしょうか。

コムテック・クウェストのホームページでも、この用役設備についての説明に多くの紙面を費やしています。例えば、

さらに用役(ユーティリティー)が何らかのアクシデントで停止した場合のリスクと対策については、特にスチーム停止と停電について詳細に説明しています。

2009年8月 7日 (金)

水素の作り方

近年、環境問題やエネルギー枯渇に関連して”水素”が注目を浴びていますが、コムテック・クウェストのウェブでも水素についての記事が多く見られますので、改めて紹介します。

まず、

次に紹介するのが、

  • 水素製造プロセス:現在、主流となっています天然ガスを原料とした水蒸気改質プロセスの概要を説明しています。

最後に上記水素製造プロセスの物質収支の計算方法について、以下のページで紹介しています。

個人的には、無尽蔵な太陽エネルギーを使って、水の電気分解により水素が大量にしかも容易に製造できるようになるなら、環境問題とエネルギー問題は解決する可能性があると思うが・・・。

そう言えば、アメリカのSF作家、ロバート・A・ハインラインが発表した小説の中に、高効率太陽電池が発明され、その特許が無償で公開されたことにより世界のエネルギー問題が一挙に解決するという未来予測を読んだことがある。

2009年8月 4日 (火)

使える検索ツール

ネットで色々な情報を探すためには”検索”は無くてはならないツールです。

コムテック・クウェストのトップページにも各種”検索ツール”を配備していますので、今回はこの”検索ツールを”紹介します。

まず、コムテック・クウェストのホームページおよびウェブ内の検索には、トップページ右上にGoogle検索を配備しました。

それ以外に、トップページ左下と上部に特許検索を三つ配備しました。

また、先ほどのGoogl検索には”書籍検索”があり、これが別な意味ですごいのである。何故かというと、キーワードで書籍検索(ブック検索)を行うと、そのキーワードが載っている書籍(日本語、英語その他)をあっという間に探し出してくれる。そこから該当する部分を探し出し、必要な情報を得る。

うまくいけば、本を購入しないで必要なデータや関係式を入手できる。ただし、書籍検索では全ページ見ることが出来ないので、該当する部分が空白な場合には、Google検索でウェブ検索を行うと稀に必要な文献などがダウンロードできることもある。

最後にCiNii(NII論文情報ナビゲータ)を紹介します。収録件数は12百万件だそうです。

2009年8月 3日 (月)

参考資料のダウンロード(1)

  • コムテック・クウェストのホームページにはプロセス設計に関連する参考資料をダウンロード出来る機能を備えており、そのために幾つかのページあるいはコラムが用意されています。

そこでダウンロードが出来る場所(トップページと基本設計演習”安全設計”に限定)と参考資料の内容について説明します。

まず、物質および熱収支計算ツール関連では、

そのほかのプロセス関連ツールとしては、

機器や配管のプロセス設計関連ツールとしては、

これ以外のダウンロード資料については次回に紹介します。

2009年8月 2日 (日)

世界のエネルギー環境関連技術動向の見分け方

今後の世界経済の成長状況を考える上でエネルギーと環境関連技術動向が注目されていますが、その情報収集あるいは情報の信頼度を知る手段として何を利用していますか?

情報源としては新聞やテレビあるいは書籍、そしてネットがあります。私の場合には、ニュースの早さ、そして関連情報量の多さからネットを一番多く使用しております。

この中でネットを情報源として考える場合、どの種類のウェブにアクセスするかが問題になります。

例えば、技術を開発保持している製造メーカーのホームページには新規技術として紹介されていることが多いのですが、どの顧客がどのような設備に採用したのかについては機密保持の面から詳細には紹介されていません。

また、新聞系ウェブやニュース専門ウェブでも連日のように新規技術などが紹介されてはいますが、広告主との関係もあってか、ニュースの種類も偏っているような気がします。

そこで今私が注目しているのは日本の「商社」です。主な商社としては三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、豊田通商(トーメンを吸収合併)、双日(ニチメンと日商岩井の合併)がありますが、いずれもホームページにニュースリリースを設けており、ここでの活動内容が世界のエネルギーと環境に関する技術動向を示す一つの指標ではないでしょうか。

そこからどう読むかは・・・?

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