プロセスの構築3
今回、説明するのは化学平衡をもとにした物質収支と熱収支を計算する方法ですが、その前に、前々回と前回説明しました内容を以下のように変更します。
次にプロセスの内容を設定しなければなりません。つまり、原料から製品を製造する手順や手段、つまり工程を具体的に決める必要があります。この工程とは化学工学の単位操作の組み合わせに相当し、プラントにおいては設備や装置に該当します。
このプロセスでは水と二酸化炭素からエタノールを製造しますので、次の手順で工程内容を決めていきます。
- 水と二酸化炭素からエタノールを作るための単位操作を決める。
- 反応の温度圧力条件を設定する。
- 製造したエタノールを製品仕様にするための処理方法を決める。
- 原料である水と二酸化炭素を 2. の生成条件にするための手段を決める。
1. に関しては、水と二酸化炭素を気相反応させてエタノールを作る合成工程が必要となります。
2. に関しては、詳細は後ほど説明しますが、温度は100~300℃、圧力は1~10MPaの範囲と仮定します。
3. に関しては、水とエタノールの混合物が生成するので、これらを原料ガス(H2O+CO2)から分離しエタノールを抽出する単位操作、つまり蒸留工程が必要となります。
4. 反応圧力に達するまで、水と二酸化炭素の圧力を高める圧縮工程が必要となります。また、反応温度まで加熱する加熱操作や生成したガスを例冷却する冷却工程などが必要となります。この原料をエタノールの反応条件にするための工程は、”流れから言えば最初に決めなければ?”と考えるでしょうが、このようなプロセス設計では最後に決めることになります。
まず、1. の工程ではこでは以下の手順でエタノールを合成することにします。ただし、エタノールの合成反応は結果として ”2CO2 + 6H2 → C2H5OH + 3H2O” ですが、下記の3. と4. の組み合わせということにいたします。(他にも色々な経路が考えられますが、詳しい議論は後ほど)
- 水(H2O) H2O → H2 + 0.5O2
- 二酸化炭素 CO2
- エタノール合成 2CO + 4H2 → C2H5OH + H2O
- シフト反応 CO + H2O → CO2 + H2
水素は水から作りますが、この手段としては地球環境へ配慮して、例えば太陽光を利用した高温電気分解などが考えられます。二酸化炭素の確保については別途議論します。
次に2. のエタノール合成の反応条件を決める必要があります。そのために考慮すべき項目は、
一つ目は化学平衡、二つ目は反応速度、三つ目は反応装置
ここで化学平衡は熱力学の基礎であり、ある温度における平衡定数および平衡反応率を計算することで、平衡状態における反応物と生成物の割合、つまり物質収支を求めることが出来ます。
次の反応速度は温度と濃度の関数で、触媒を伴う反応では触媒の比表面積(表面積/体積)に比例します。この反応速度を積分することにより触媒量を求めることが出来ます。
次の反応装置は反応に必要な空間(例えば触媒)を提供し、反応に伴う熱の授受を行うための機能を有しています。
実際のプロセス設計では、まず温度圧力を設定して化学平衡を考慮して物質収支と熱収支を計算し、次に反応速度を求め必要な空間あるいは触媒量を算出します。最後に必要な空間を有する大きさと形状、そして反応熱を考慮した構造を考えて反応装置を設計します。
まず、設定した温度範囲における平衡定数および平衡反応率を計算します。次に平衡定数を温度の二次関数として式化します。この理由は温度や圧力を変えたケーススタディを行う上で都合が良いからで、エタノール合成およびシフト反応それぞれについて求めます。
次に原料の流量ならびに組成を設定します。原料の流量は、今の時点で製品のエタノールがどの程度生産できるのか不明ですので、水素と二酸化炭素を ”2CO2 + 6H2 → C2H5OH + 3H2O” の割合に沿って流量を決め、また、二酸化炭素中の窒素分(0.5%)も考慮します。
- 水素 6000kmol/hr
- 二酸化炭素 2000kmol/hr
- 窒素 10kmol/hr
さて、次にいよいよ物質収支の計算に移ります。
まず、おおかたの合成条件を決めるために、原料である水素と二酸化炭素(不純物の窒素含む)の混合ガスを仮想のエタノール合成反応器に供給します。そこでは触媒量が無限にあるという前提で、反応は平衡まで到達するとします。計算する範囲は、温度 100~300℃、圧力 1~10MPaとしそれぞれにおけるエタノールの量を計算します。その結果の一例を下記に示します。
- 圧力の影響(温度200℃固定) 1MPa 361T/D, 2MPa 533T/D, 3MPa 624T/D, 4MPa 682T/D, 5MPa 723T/D
- 温度の影響(圧力2MPa固定) 180℃ 652T/D, 200℃ 533T/D, 220℃ 410T/D, 240℃ 288T/D, 260℃ 160T/D
原料中の水素量から生成するエタノールの理論生産量は、6000kmol/hr×46.069(エタノール分子量)×24hrs/日÷6 ですから、約1100T/Dになります。
これらの結果と類似プロセスの経験から、反応条件を次のように設定します。
- 圧力 3MPa
- 温度 200℃
次回は、エタノール生産量を向上させるためにプロセスを改善する方策について説明します。なお、今回の内容をホームページにも載せますので後日アクセスしてみて下さい。
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二酸化炭素と水・水素からエタノールを作れるとの事ですがその二酸化炭素・水・水素は大気中の二酸化炭素や水道水なのでしょうか?燃料電池の水素は水からは作れないそうですが・・・
投稿: ニシカワ | 2008年8月30日 (土) 02時35分
コメントありがとうございました。
水と二酸化炭素からエタノールを製造する技術は現在まで実用化されていません。2008年1月23日の「プロセス設計に必要な基本事項」にも記載しましたが、”プロセス設計に関する説明をより分かり易くするために、仮想的なプラントを設定しましょう。製品:エタノール(代替燃料として利用)原料:二酸化炭素(炭酸ガス)と水、(誤解が無いように言っておきますが、現在このような方法でエタノールを作ることは出来ません)”であり、残念ながら現在の工業技術では不可能かと思われます。
投稿: コムテック | 2008年9月 1日 (月) 23時45分