プロセスエンジニアのためにウェブサイト

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プロセス性能とAI

今年(2020年)の8月から「プロセス性能とAI」と題して私のホームページ(プロセスエンジニアのためのウェブサイト)に記事を書き始めました。

今から30年前の1990年代にAIブームがありました。そのころ、多くの企業では生産性向上の観点から ① 業務の分類と定形化(ルーチンワーク)、② 技術的専門知識の伝承(エキスパートシステム)、③ 情報伝達システムの構築、などが検討されていました。現在、それらは形を変えて、① 事務作業の電子化、② ビジネスにおけるAIの応用、そして③ IT化に繋がっています。

また、個人ベースでもAIを使えるようになりましたので、その成果の一部を「プロセス性能とAI」で紹介しています。なお、私が使用したAI技術は、

ソフトウェア名:Prediction One
社名:ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
URL:https://predictionone.sony.biz/

 

2019年4月18日 (木)

安全設計の概要ー安全設計とプロセス設計

安全設計の概要

プロセスプラントは原料から化学製品を生産しますが、これだけではプロセスプラントの役割を果たしていることにはなりません。そこには”品質”という修飾語が必要となります。それを加えてみると「指定された種類と品質を有する原料から、定められた品質と量の製品を一定の時間内に生産する」ことになります。この決められた質と量の製品を生産するためにはプロセスプラントを安全に運転する必要があります。

この「安全とは許容できないリスクが存在しない」ことですから、プロセスプラントを安全に運転するということは、許容できるリスクが存在する中で運転することを意味しています。そのためには、

  1. 原料や製品あるいは装置や機器のハザード(危険性あるいは有害性)を明らかにする。
  2. ハザードから想定できるリスクを洗い出し、許容出来るリスクかどうかを評価する。

つまり、可能性のある運転モードや運転条件の中で上記の作業を行い、運転範囲を明確にする必要があります。具体的には運転温度や運転圧力などの上限と下限を定めます。しかし、可能性のある運転モードや運転条件を洗い出すためには、プロセス設計をある程度進めておく必要があります。つまり、プロセスプラントに関する予備設計あるいは概念設計を終わった段階で、初めてプロセスプラントの安全設計を行うことができます。

以上のことから、安全設計の最初のステップでは予備設計あるいは概念設計を終わった段階以降に以下の作業を行います。

  1. 可能性のある運転モードや運転条件を洗い出し、
  2. 原料や製品あるいは装置や機器のハザードを明らかにして
  3. ハザードから想定できるリスクを洗い出し、
  4. 運転温度や運転圧力などの運転条件の上限と下限を定める。

2019年4月17日 (水)

プロセス安全管理システム PSMS-1ープロセスプラントにおける安全設計

OSHAのPSMSは1990年7月に公表され、数回の公聴会を経て1992年2月に正式に発表されました。OSHAが公表した約4ヶ月後(1990年11月15日) に大気汚染防止法改正(CAAA)が制定され、CAAAの要求によりPSNSの中に化学品の偶発的な放出から従業員を保護するための”化学プロセス安全基準の公布”を含めることになりました。同時に有毒性、可燃性、高反応性、および爆発性の物質を含む非常に危険な化学物質のリストを含めること、雇用側が守るべき項目が規定されました。

PSMSには序文に相当する”The Problem”と”How the Standard Works”、以下に示すように本文に相当する14項目を含んでいます。

  1. プロセス安全情報(Process Safety Information)
  2. プロセスハザード分析(Process Hazard Analysis)
  3. 作業手順(Operating Procedures)
  4. 従業員の参加(Employee Participation)
  5. トレーニング(Training)この中にはTraining、Initial Training、Refresher TrainingおよびTraining Documentationを含む。
  6. 協力会社(Contractors)この中にはApplication、Employer Responsibilities、Contract Employer Responsibilitiesを含む。
  7. 運転開始前の安全審査(Pre-Startup Safety Review)
  8. 設備の健全性(Mechanical Integrity)
  9. 火気使用許可(Hot Work Permit)
  10. 変更管理(Management of Change)
  11. 事故調査(Incident Investigation)
  12. 緊急時対応計画(Emergency Planning and Response)
  13. 監査(Compliance Audits)
  14. 業務機密(Trade Secrets)

それ以外に参考文書や付記あるいは補遺など8項目を含んでいます。

Part 1910-Occupational Safety and Health Standards
§ 1910.109 Explosives and Blasting Agents
§ 1910.119 Process Safety Management of Highly Hazardous Chemicals
Appendix A - List of Highly Hazardous Chemicals, Toxics and Reactives (Mandatory)
Appendix B - Block Flow Diagram and Simplified Process Flow Diagram (Nonmandatory)
OSHA Consultation Directory
States With Approved Plans
Related Publications

最初のプロセス安全情報について説明します。プロセス安全性情報(PSI)は、機器とプロセスの両方の観点から何を扱っているのかを示すという点でPSMSの要です。具体的にはプロセスで使用または生産される化学物質の危険性に関する情報、プロセスの技術に関する情報、および製造装置に関する情報が含まれている必要があります。

プロセスで扱う化学物質の危険性については、毒性情報、許容曝露限度、物性、反応性、腐食性、熱的および化学的安定性や、多種の材料を混合した際の危険性などです。

プロセス技術に関する情報としては、

  1. ブロックフロー図またはプロセスフロー図:BFDやPFDのこと
  2. プロセス化学:具体的には原料から製品に至るまでの物質収支が役割を果たしている。
  3. 最大予想貯量:プロセス扱っている化学物質の貯蔵量で、配管や機器内部に含まれる質量。
  4. 運転条件(温度、圧力、流量、組成など)の安全と思われる最高値あるいは最小値、つまり。最高温度や最低温度や設計温度。
  5. 運転温度や運転圧力が設計条件から逸脱した場合に、従業員の安全と健康に影響する度合いの評価。

プロセス内の機器に関する情報には次のものが含まれます。(ほとんど全てがプロセス設計文書として作成されています)

  1. 機器や配管などの材料の種類や仕様
  2. 配管計装図(P&ID)
  3. 防爆分類
  4. 安全弁などの放出システム設計と設計基準
  5. 屋内換気システム設計
  6. 設計標準および設計規格
  7. 物質エネルギー収支(1992年5月26日以降に設計製作されたプロセス)
  8. 安全システム(インターロック、検出または抑制システムなど)

また、雇用者は設備が公認および一般に認められている優れた技術慣行に準拠していることを文書化する必要があります。一般的に使用されなくなった標準や規格、または技術慣行に従って設計製作された既存の機器については、雇用主は機器が安全な方法で設計、維持、検査および操作されていることを確認し文書化する必要があります。

2019年4月15日 (月)

安全管理と標準ープロセスプラントにおける安全設計

機械安全に関する国際的な取り決めとしては国際標準機構(ISO)がありますが、電気製品からの火災爆発防止から国際電気標準会議(IEC)も忘れてはなりません。これらのISO規格とIEC規格は各国の規格、日本ではJIS規格と同一な内容になっており、プロセスプラントの設計を行う上でよりいっそう海外からの情報に注意すべきでしょう。

JISにおける機械安全に関しては一般財団法人 機械振興協会の「機械安全のための規格と法律、設計方法の紹介 詳細」に記載されています。基本的な安全の概念および原則に関しては、

  1. JIS B 9700-1,2=ISO 12100-1,2:機械類の安全性-設計のための基本概念
  2. JIS B 9702=:ISO 14121,EN 1050:機械類の安全性-リスクアセスメントの原則

があり、それ以外に安全距離、健康リスク低減、マーキングおよび作動、常設接近手段などに関する条項があります。

JIS B 9705-1、JIS B 9707、JIS B 9708、JIS B 9709-1,2、JIS B 9711、JIS B 9706-1,2,3、JIS B 9713-1,2,3,4

一方、プロセス安全についてはプロセス安全管理システム(Process safety management:PSMS)が米国労働安全衛生局(OSHA:Occupational Safety and Health Administration)から公布されており、ホームページに詳細内容が記載されています。また、イプロス*1のTech Noteの”プロセス安全管理の基礎知識”にプロセス安全管理の一部が紹介されています。

PSMSの概要についてはWikipediaAのProcess safety managementにも紹介されており、その一部を紹介します。

  • OSHAのPSMSで定義されているプロセスとは、危険性の高い化学物質(HHC)の使用、保管、製造、取り扱い、または現場での移動を含む、任意の活動または活動の組み合わせです。
  • また、このPSMSはEPA(環境保護庁)またはOSHAによって「非常に危険な化学物質」と定義されている物質の放出防止に焦点を当てた分析ツールです。PSMSはプロセス産業に関連する危険を管理するための相互に関連した一連のアプローチを指し、化学物質や他のエネルギー源の放出から生じる事故の頻度と重大度を減らすことを目的としています。
  • この標準は、組織上および運用上の手順、設計ガイダンス、監査プログラム、その他多数の方法で構成されています。

 

 

 

2019年4月14日 (日)

機械安全ープロセスプラントにおける安全設計

化学系のプロセスプラントには回転機や圧力容器あるいは塔や反応器などの多種多様な機器や機械が設置されています。これらの機器や機械の安全性を確保するために、つまり機械安全のために数多くの規格や法律が制定されています。

プロセスプラントを含め、製造生産現場での安全を確保するためには機械自体が損傷することなく動くだけでなく、機器や装置を動かす人間の保護を確保しなければなりません。つまり機械を主体とした狭い意味での機械安全と、人間をリスクから保護するための労働安全が必要となります。この機械安全と労働安全に関する入門書としてはオムロンの機械安全入門がお薦めです。そこには以下のように記載されています。

「機械安全」とは、機械の設計手順や安全防護(安全装置)などの機械本体に関わる安全をさします。機械安全は機械が壊れても、人が間違えても、技術によって安全を確立する考え方です。「労働安全」とは、作業者の意識や行動、作業手順などの運用に関わる安全をさします。よって、人と教育に依存した安全と言えます。

機械安全に関する情報発信Webの一つとして”中災防(JISHA)の機械安全とは”があります。この中で、機械の安全化を進める上での三つの大前提と、機械の安全化の三原則が紹介されています。機械安全化の大前提は絶対安全は存在しないとの原理(?)から、以下の三項目が示されています。

  1. 人はミスをする
  2. 機械は故障する
  3. 絶対安全は存在しない

また、機械も人間もミスを犯しますが、それを現実的なレベルまで許容するという前提(これが安全の定義ですが)から、以下の機械安全化の三原則が示されています。

  1. 本質安全の原則:機械の危険箇所(危険源)を除去する、又は人に危害を与えない程度にする。例えば、角部を丸くする、作動エネルギーを小さくするなど。
  2. 隔離の原則:人が機械の危険源の接近・接触できないようにする。例えば、柵や囲い等のガードを設ける。
  3. 停止の原則:一般的に機械が止まっていれば危険でなくなるので、人が機械の動作範囲に入る場合は、インターロック等で機械を停止させる、又は停止してから入場を許可する。

この中で隔離の原則があります。例えば金網などのフェンスやロープで立ち入り区域を囲うだけで人は入ろうとしません。そこに”危険”などの注意書きを貼っておけばさらに万全です。

プロセス安全はプロセスプラントに含まれる全ての機器や機械を対象に、機械安全(労働安全を含む)をシステム化したものです。ここで機械安全を運転制御安全と改めてプロセス安全を以下のように定義します。

プロセス安全=機械安全+運転制御安全

2019年4月13日 (土)

安全にするープロセスプラントにおける安全設計

”安全”とは許容あるいは受容できないリスクがない状態のことですが、そこに”安全にする”という意味を加え、安全な状態になるように ”計画する” ”実行する” ”検証評価する” という動作を付加します。例えば、機械や装置を安全に運転するために計画して実行し、検証評価することが機械安全となります。

厚生労働省で定義したハザードを装置や機械、原料や製品およびプロセスやシステムに分類します。

【装置や機械】

  1. 装置や機械などの不適切な動作や性能などによる危険性

【原料や製品】

  1. 原材料や製品による有毒性、あるいは中間製品や用役に使用されるガス、水蒸気、粉じんなどによる有害性
  2. 上記物質の爆発性、発火性、引火性、腐食性などによる危険性

【プロセスやシステム】

  1. 電気、熱その他のエネルギーによる危険性
  2. 作業方法から生ずる危険性
  3. 作業場所に係る危険性
  4. 作業行動等から生ずる危険性
  5. 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による有害性
  6. 作業行動等から生ずる有害性

先ほどの機械安全は、上記の【装置や機械】1.の”装置や機械などの不適切な動作や性能などによる危険性”を改善するあるいは消滅させる行為を意味することになります。同様に【原料や製品】に関しては製品安全、【プロセスやシステム】に関してはプロセス安全が対応します。

2019年4月12日 (金)

改めて安全とはープロセスプラントにおける安全設計

安全というと「危険でない状態」あるいは「安心できる状態」などと表示されることが多く、しっかりした定義があるわけではありません。国際基本安全規格(ISO/IEC GUIDE 51:1999)では安全を以下のように定義しています。

「安全とは許容あるいは受容できないリスクがないこと」

言い換えると、許容あるいは受容できるリスクであれば安全とみなすことが出来ます。ここで使用されているリスクは危険そのものではなく、可能性を示しており、「危険性・有害性によって生ずるおそれのあるけがや疾病のひどさと発生する確率を掛け合わせたもの」と定義されています。これは“絶対安全は存在しない”という表現と同義で、日本では安全とは危険は存在しないという絶対安全に近い理解をしている人が多いのも事実です。なお、危険性あるいは有害性をハザード言っています。

ハザードは人、環境および財産に対して悪影響を及ぼし得る状態で、厚生労働省では以下のように定義しています。

【危険性の分類例】

  1. 機械等による危険性
  2. 爆発性の物、発火性の物、引火性の物、腐食性の物等による危険性
  3. 電気、熱その他のエネルギーによる危険性
  4. 作業方法から生ずる危険性
  5. 作業場所に係る危険性
  6. 作業行動等から生ずる危険性

【有害性の分類例】

  1. 原材料、ガス、蒸気、粉じん等による有害性
  2. 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による有害性
  3. 作業行動等から生ずる有害性。

ハザードはそれだけでは危険性あるいは有毒性と言うだけで、危険そのものにはなり得ません。人あるいは設備や機器がハザードに近づくことで、はじめてリスクとなります。このようにハザードとリスクの違いを明確に理解する必要があります。

2019年4月11日 (木)

危険性物質ープロセスプラントにおける安全設計

危険性物質とは火災や爆発の原因となる危険物質と中毒や障害を起こす有毒劇物の総称です。化学プラントでは多くの危険性物質を扱っていますので、危険性物質を原因とする災害事例が数多く発生しています。

日本国内では危険性物質を規制するために下記に示す法律が施行されています。

  • 消防法危険物
  • 労働安全衛生法
  • 高圧ガス保安法
  • 火薬類取締法
  • 毒物および劇物取締法
  • 化学物質の審査および製造などの規制に関する法律

前出の厚生労働省の”職場のあんぜんサイト”に”化学物質による災害事例”が紹介されています。そこにはあいうえお順で亜鉛から六フッ化硫黄までの200弱の化学物質による災害事例が記載されています。特に災害事例が多い化学物質としては30種類で、その中にはアセチレンなどの可燃性ガスから硝酸や硫酸あるいは水酸化ナトリウムなどの腐食性物質があります。

これ以外に有害性物質があります。日本のことわざに「毒にも薬にもならない」がありますが、これは「害にならない代わりに、役に立つこともない、あってもどうでもいいもの」を意味しています。これと似て非なる言葉があります。それが「あらゆるものは毒であり、毒なきものなど存在しない」で、表現を変えると有毒性物質を意味しています。この言葉を最初に述べたのはスイス人医師のパラケルススで、例えばニトリグリセリンは爆薬ですが、狭心症の治療薬として使用されています。

先ほどの”化学物質による災害事例”を整理しなおしますと、以下のようになります。

  • 火災や爆発の原因となる危険物質:アセチレンや水素、メタン・プロパン・ブタン、アセトンやエタノール、アルミニウムや硫黄
  • 中毒や障害を起こす有毒劇物:アンモニア・酢酸エチル、アセトン・キシレン・トルエン・メタノール、窒素・一酸化炭素・二酸化炭素・硫化水素、塩素・塩化水素(塩酸)・硫酸・水酸化ナトリウム
  • 酸欠:アルゴン、二酸化炭素、フロン、プロパン

特に一酸化炭素や硫化水素および塩素ガスによる中毒やトルエンによる中毒が多く報告されています。

 

2019年4月10日 (水)

プロセスプラントにおける安全設計

本年(2019年)5月23日に「プロセスプラントにおける安全設計」と題してセミナーを開催します。

化学プラントのプロセス設計において、プラントで働く従業員ならびに設備や機械、そして周辺環境の安全を確保することは極めて重要なポイントです。セミナーの準備として、安全設計に関する資料をメモあるいは覚え書きとして、このブログに書いていくことにします。

まず、官公庁の安全に対する取り組みについて調べてみました。その一つが、厚生労働省の”職場のあんぜんサイト”です。

そこには”労働災害統計”と”災害事例”および”教材・資料”が記載されており、その中の労働災害事例では業種別、事故のタイプなどから検索できるようになっています。ただし、この中から化学プラントとして直接検索できないので、災害事例を検索するには一工夫が必要です。

一例として、”業種=製造業、事故の型=有害物などとの接触”として検索すると、酢酸エチルやアニリンなどの物質による災害を探すことが出来ます。例えば、「アニリンを含む廃液をろ過する作業中、急性アニリン中毒となり」という災害事例では、発生状況、原因および対策を見ることが出来ます。

2016年5月10日 (火)

機械工学と化学工学 その1

大学および大学院で機械工学科を学んだ後、エンジニアリング会社に就職し、化学プラントのプロセスエンジニアとして20年以上働いてきました。その後、独立して有限会社コムテック・クウェストを設立し、今もプロセス設計の分野にどっぷりと浸かっています。

機械工学では流体工学を専門に勉強してきましたので、化学プラントの基盤である”化学工学”について勉強する機会はありませんでした。エンジニアリング会社に入ってからも化学プラントの専門用語を理解しながらプロセス設計に慣れることにほとんどの時間を費やしましたので、体系だって化学工学を勉強する暇はなかなかありませんでした。その中で曲がりなりにも化学工学に触れた最初の機会はアンモニア合成反応器の設計でした。それ以降、プロセス設計を行う中で化学工学に親しんでいき、いつの間にか問題解決に際しての化学工学的アプローチについて理解出来るようになりました。

この記事のタイトルとして”機械工学と化学工学”を選んだのは、機械工学と化学工学の狭間の中で右往左往した私の体験談を述べることで、読者の皆さん、特に若いエンジニアの方々のお役に立てればと思っております。

最初のエピソードは圧力損失の計算式の名称についてです。

例えば円管内を流れる際の摩擦によるエネルギー損失を機械工学では損失水頭(head loss)で表し、その計算式をダルシー・ワイスバッハの式(Darcy-Weisbach equation)と言っています。この損失水頭に流体の密度と重力加速度を乗じることにより圧力損失(流体単位体積当たりのエネルギー損失)を求める事が出来ます。一方、国内の化学工学分野では圧力損失を求める計算式をファニングの式と言っています。ダルシー・ワイスバッハの式は次元解析から得られた式で、ファニングの式は流体にかかるせん断力と圧力損失との関係から求められた式です。

化学工学を勉強することなくエンジニアリング会社に入りましたので、入社一年目に”ファニングの式”の意味を上司から問われましたが、答えることが出来ず、怪訝な顔をされたことを今でもはっきり覚えています。勿論、両方の式から得られる圧力損失は同じ値を示しますが、使用されている摩擦係数の定義が違っており、慣れるまで多少の時間を必要としました。

なお、ダルシー・ワイスバッハの式についてはウィキペディア日本語版で詳細を知ることが出来ますが、ファニングの式についてはウィキペディア日本語版には見当たりません。また、ウィキペディア英語版でも同様で、ファニングの式に関しては"Fanning friction factor"で検索してみて下さい。

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