自然科学

2006年5月26日 (金)

天災は忘れた頃にやってくる

表題の「天災は忘れた頃にやってくる」は、雪の結晶の研究で有名な物理学者である中谷宇吉郎氏が作られた名言である(寺田寅彦氏ではないようだ)。ここでいう天災は1923年に起きた関東大震災を指しており、これから話す台風やハリケーンのことではない。しかし、昨年、アメリカのニューオリンズを中心に8兆円もの被害を与えたハリケーン「カトリーナ」はアメリカ国民にとっては、まさしく「天災は忘れた頃にやってくる」であった。亡くなられた方々に合掌・・・。

先日、アメリカの海洋大気局(NOAA)が今年のハリケーンの発生予測を発表した。この発表によればハリケーンの発生数は昨年より多いそうで、原因は大西洋の海水温度が高いこと、そして貿易風(亜熱帯から熱帯へ吹く東の風)が弱いことなどが上げられている。

大西洋のハリケーンのほとんどはカリブ海やメキシコ湾で発生する。地図を見るとわかるが、このあたりは南北アメリカ大陸およびカリブ海諸島に囲まれた閉ざされた海域であることがわかる。そのために太陽に熱せられた海水は長く留まるために海温が上昇する。またアフリカ大陸から吹いてくる貿易風の勢いが弱いと、カリブ海やメキシコ湾上空の大気もよどむためにさらに海水温度が上昇する。

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なぜ海水の温度が上昇すると台風やハリケーンの発生回数が増えるのであろうか。色々探してみたが、なかなかぴったりする説明がないので自分で考えてみた(暇人?)。
少し物理の復習するつもりで以下の現象を理解してもらいたい。

水あるいは海水の温度が上昇すると蒸発する水の量が増える。

この現象の具体的な例が「お湯を沸かす」ということ。つまり、なべに水を入れて加熱していくと最初は変化が見られない。しかし、さらに加熱するとなべの底から泡(水蒸気)が発生し始め、水の沸点である100℃近づくにつれて泡の数が増えていく。最後には水面から水が蒸発し激しく沸騰する。そして、なべの表面から放出された水蒸気は空気で冷されて白くなり湯気となっ空気中に逃げていく。つまり、水は加熱される度合いにしたがい発生する水蒸気の量が増えていくのです。

海水でもこれと同じ現象がおきます。ただし、海水の温度が90℃にも100℃にもなることはないので、なべのように沸騰するという現象は見られません。しかし、温度が高くなるにつれて発生する水蒸気の量は増えていきます。この量は”水の蒸気圧”に比例するので、蒸気圧は”蒸発する能力”と同じような意味合いとなります。

地球の温暖化では世界の気温や海水の温度が今世紀末に1℃以上、最大で5℃上昇すると言われています。「たかだか海水の温度が1℃や5℃上がっても大きな影響がないのでは」と思うかもしれませんが、

水の蒸気圧は温度に比例するのではなく、近似的に見て温度(絶対温度)の4乗に比例する

なぜかと聞かれても困りますが、水だけではなく、ほとんどの液体の蒸気圧は温度(絶対温度)の4乗にほぼ比例します。具体的に水の蒸気圧の温度による変化を見てみますと次のようになります。

24℃で発生する水蒸気量を100とすると、水温が2℃上昇した場合の水蒸気量は113となります。これが5℃上昇した場合には134、10℃上昇では水蒸気量は何と80%弱増加して178となります。

さらに空気と水蒸気の持つエネルギー増加の割合は、先ほど示した水蒸気量の増加傾向より大きくなります。同じように24℃での空気と水蒸気の持つエネルギーをベースとして考えますと、5℃上昇するとエネルギー量は46%増加します。このように水や海水の温度の上昇により多くの水蒸気が大気中に流れ込んで雲を発生し、同時に増加したエネルギーにより台風やハリケーンが発生することになります。

この自然現象に対して、有効な対策を取ることは現実的に非常に困難です。6月1日から11月30日までがハリケーンシーズンと呼ばれており、もし昨年と同じような超大型のハリケーンがアメリカを襲った場合には予想以上の被害が発生することでしょう。そのことは11月に行われるアメリカ大統領を選ぶ中間選挙の結果にも影響を与えることになり、引いては世界情勢を左右するかも・・・。

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