環境とエネルギー

2009年7月16日 (木)

水俣の今

有機水銀中毒が原因である水俣病が発生したのは1956年、今から50年以上も前のことである。とは言うものの、水俣病未認定患者を救済する特別措置法が公布、施行されたのは今月15日である。

水俣病の舞台となった水俣市は鹿児島県との境に近く、八代海に面した自然豊かな地方都市である。この水俣市の近況を綴ったコラムを見つけ興味深く読んだので紹介したい。

今なお苦しんでいる人々を忘れてしまいそうな、隔世の感のある内容であった。

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2009年5月18日 (月)

木質系バイオマスからのDMEの合成に成功

”木質系バイオマスからのDMEの合成に成功”という記事を見つけた。

岩谷産業と産業技術総合研究所が共同で開発した技術で、以下引用すると、

岩谷産業は、産業技術総合研究所との共同研究で、木質系バイオマス由来のジメチルエーテル(DME)の合成に成功したと発表した。
今回のDME合成プロセスでは、研究レベルからスケールアップした装置を使った。1MPa未満の条件で木材をガス化したものからDMEを高効率で得られるもので、研究では実際に120gのDMEサンプルを得ることに成功した。
1MPa未満の条件下で、木質系バイオマスからDME合成に成功したのは初めて。これまで、バイオガス燃料の研究は大規模・大量生産が中心で、小規模プラントの研究はあまりされてこなかった。
中略・・・
岩谷産業は、原料確保が容易なエリア間を移動して小規模に生産したバイオマスDMEを、需要の見込まれるエリアで消費するといった機動性を活かした事業モデル、バイオ燃料の地産地消事業モデルへ発展し得るとしている。

この記事の内容が正しければ、まさに極めて環境に優しい地球温暖化への対策となる技術と思うのだが、ここに大きな落とし穴がある。それは、「1MPa未満の条件で」という記述である。これをそのまま理解すると、以下のような技術内容が予想される。

  1. 木質系バイオマスを大気圧下でガス化する。
  2. ガス化された木質系バイオマスを約1MPaまで圧縮する。
  3. 約1MPaの圧力、温度約***℃以上でDMEを合成する。

ここで問題となるのはガス化炉を出たガスを大気圧から約1MPaまで圧縮するための動力が必要になり、そのために電気が必要となるのでDME製造の際のエネルギー消費量が増加し、最終的にはエネルギー的なメリットがなくなってしまうのである。

バイオマスをガス化する場合、ガスの圧力を上げてDMEやメタノールなどを合成するプロセスでは、バイオマスの利点を大幅にダウンしてしまう可能性が大きい。

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2008年3月21日 (金)

世界最高効率の太陽電池

少し硬い話をしたい。

今後、化石燃料の生産量は確実に減少する。その兆候の一つが原油価格の上昇であり、最近のサブプライム問題の影響もあり、今後ますます上昇するであろう。原油のみならず、鉄、ニッケルなどの価格も上昇しており、身近では包丁の刃に使用されているステンレス鋼の価格は数年前に比べ2倍以上である。

結局、全ての価格の上昇は、真実かどうかは別にして(そうでないという意見も考慮してこのような書き方にしました)、地球温暖化とエネルギー問題から来ているのではないかと思う。

個人的には、エネルギー問題を解決する唯一の手段は「太陽電池」であると確信する。

各家庭や事業所の屋根などに高変換効率の太陽電池が設置され、エネルギーのほとんどを自給出来る社会はどのような将来を我々に約束するのであろうか。不安でもあり、楽しみでもある。その可能性を示したのが以下の記事である。

三菱電機、実用サイズ多結晶シリコン太陽電池セルで世界最高の変換効率
三菱電機は、150mm角サイズの実用的な多結晶シリコン太陽電池セルで、世界最高の光電気変換効率となる18.6%を達成したと発表した。これにより、狭小屋根などの限られた設置スペースでも発電量を確保できるという。

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2008年1月20日 (日)

「・・・の原発大国への道」について

16日のブログに中国について書いてみたので、今回は何かと中国と比較されるインドについて書いてみた。

きっかけは表題にあるように17日の日経BPネットに乗っていた伊藤洋一氏の「インド、中国の原発大国への道」の内容である。この記事の中で、伊藤氏はインドと中国の急接近と両国のエネルギー政策、特に原発建設に対する見方について以下のように述べている。

筆者(伊藤氏)は、この2頭の巨象はどちらにせよ、当面は原発への依存を高めると思う。だったら、「両国にとっての安全な原発」の建設に協力すべきだと思うが。

これに対する私の意見も同じであり、日本としても協力すべきだと思う。勿論、原発が潜在的に持っているリスクにどう対応するかは別に考えなければならないが。(例えば、週刊東洋経済に連載されている真山仁氏の「ベイジン 二○○八年」を見よ)

ここで、この記事に関係するインドの電力事情について述べてみたい。インドはご存じのよう石油も天然ガスも輸入に頼っており、唯一のエネルギー源であった石炭も不足気味で一部輸入もしているが、石炭の生産と消費では世界第三位である。
インドへは出張で五回ほど行ったことがあり、1990年代初めの出張ではインドにおける石炭ガス化発電の可能性と電力事情の調査を行った。そこで見聞きしたことをまとめると、インドの電力事情の深刻さがわかる。

つまり、インド国内の炭田(東部から中央部にかけて)から消費地へは主に鉄道輸送で行う。この鉄道を走る機関車はほとんどが電気機関車である。インドの雨期は6~9月であり、その期間は方々で道路も鉄道も水浸しとなり、輸送がストップする。そのために火力発電所へ石炭を供給できなくなり停電となる。また、当然ながら工場や鉄道、そして農業設備(灌漑用ポンプなど)の運転も停止する。

一方輸送される石炭のほとんどが瀝青炭であり、品質としては悪くないのであるが、輸送あるいは貯蔵中に暑さのために自然発火し、その後の消火のために灰分や水分が多くなって発熱量が低下し、発電所本来の能力が未達となって電力不足となる。

このようにインド国内の電力状況には多くの問題を抱えており、原油や天然ガス価格の高騰と急激な経済成長を考えると原発の方向に行かざるを得ない。つまり、伊藤氏が言うように”原発への依存を高める”というよりは、それしか生きる道がないのだと思う。

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2007年2月22日 (木)

チャイナ・クライシス

自然環境や社会環境が変わることで人々が住まなくなり、国が滅びた例はいくつもある。

このような場合、太古の昔では母国を捨てて理想の土地を探しだせるチャンスはいくらでもあった。アーリア人のインドやイランへの移動やゲルマン民族の大移動もその例である。しかし、現在の世界では少数民族といえども、国境を越えての移動は民族間の紛争を招き、安住の土地を見つけることは至難の業である。日本近辺にも、そのような危険性を内包している国がある。

中国に関する優良な情報源として「中国情報局」がある。別名、サーチナとも呼ばれるこのサイトで、サーチナ総合研究所が昨年末に「2015年の中国と私」をテーマとする論文を募集し、その結果として「サーチナ論文大賞2006」が発表された。この最優秀賞に選ばれた論文と優秀賞として選定された論文の一つが、ともに中国の環境問題を論じたものであった。

かって、プラントビジネスに身を置いていた私は、1990年代に技術交渉や技術交流のために北京や上海、西安、重慶、あるいは海南島などを幾度となく訪れたが、その打ち合わせの席で環境問題について議論をした覚えがない。その後の10年間で中国は世界をあっと言わせた成長を成し遂げたが、その繁栄の裏側には悲惨な環境汚染と環境破壊を招いているのは承知の事実である。
すでに中国は清の乾隆帝時代に匹敵する領土を有しており、これ以上国外に膨張することはあり得ないとすれば、国内の自然環境の悪化により逃げ出すことは出来ないのである。さらに環境問題は国境を越えて周辺諸国に被害をもたらすのであるから、中国人だけに問題解決を強いることは出来ない。不名誉にもかって公害先進国と言われた日本は、この面でも中国に大いに協力することが出来る。そのために、企業や個人のレベルを超えて国と国とで何をすればよいのかを真剣に考えるべきである。

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2006年6月14日 (水)

トヨタのエタノール車と原子力発電

トヨタ自動車がバイオエタノール100%燃料で走行可能な車を、エタノール先進国ブラジルに初めて投入するそうだ。

このバイオエタノールはサトウキビやトウモロコシなど植物を使って作られるエタノールのことで、正式名称はエチル・アルコールという。多くの企業がこのエタノールビジネスに参加し始めており、エネルギーと環境の面からの一つの解決策と思われている。ただし、物事全てがうまくいく解決方法はなかなか無いのが現状で、そのあたりは先々月(4月)に書いた「バイオマスは果たして地球温暖化の救世主となりえるのか?」をご覧下さい。

ここで言いたいことは、バイオエタノールのように製造する上でそれほど技術的困難が無い場合には、世代が交代しても技術の伝承は容易である。しかし、高度で総合的な技術が要求されるようなビジネス、そして何らかの理由によりそのビジネスが縮小した時には技術の伝承はなおいっそう困難である。
それは、ビジネスの縮小は技術者の削減を伴うからで、世代が交代するごとに技術の質と量は先細りになる。

その良い一例が原子力発電である。

今月の12日にCNET JAPANから”「地球温暖化防止には原子力発電を」--グリーンピースの創設者らが提言”というニュースが配信された。

この原子力復活のシナリオの一つとして、以下のようなコメントが記載されている。

「規模およびコストを考えたとき、(化石燃料消費の)上昇を押しとどめられる存在は原子力をおいてほかにない。原子力の復活は、当然の論理的帰結だ」

ただし、原子力そのものに対しアレルギーを持つ人も多いので、今後原子力発電が大きく羽ばたくかどうかは不明である。さらに問題なのは、米国も欧州もそして日本においても原子力技術者の多くがすでに一線を引退しているか配置転換されているために、もし復活が決まったとしても実質出来ないということになる。

つまり、我々にとってエネルギー問題を解決するための選択肢は、時間が経てば経つほど狭まっていくということになる。

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2006年5月 2日 (火)

黄砂、号外ブログ

読売新聞の夕刊第一面に中国から飛んでくる黄砂についての記事を見た。

「砂漠化」というkey wordでインターネット検索したところ、砂丘・オアシス倶楽部という面白いWebを見つけた。その中の”教養ゾーン”の砂ワールドに砂漠化に関する研究結果が講座形式で説明してあった。一部しか読んでいないが、単に植林をすれば解決するような生易しい問題ではないようで認識を新たにした。

例えば、「大草原の沙漠化の現状と対策 モンゴル」では以下のように論じている。

モンゴルは年雨量が200㎜以下の占める面積は国土の半分である。中略。家畜数も我が国土に匹敵する面積にわずか500万頭ほどいるにすぎない数である。中略。今日、時流にのって沙漠化と過放牧を結びつけて論ずる問題ではないと思う。中略。貿易量は年々増加し、輸入量が増えればその手段は大型トラックに頼るしかないのは当然である。このトラックが荷物を満載して、大草原の中を縦横に走り廻ることがモンゴル大草原の沙漠化の主因である。これらは写真を見れは明らかである。決してモンゴル大草原の沙漠化は家畜の過放牧が原因ではない。

黄砂による影響は単に長期間に渡って街がかすむだけでなく、汚染物質の飛散やアレルギー物質の同伴など多くの問題を抱えているので、東アジア全体で協力して対策を考えるべき問題だと思う。ただ、現在の国際情勢ではなんともならないのが口惜しいが。

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2006年4月14日 (金)

原油についての”あれっ!”

つい先ほどイランのウラン濃縮関連活動についてのニュースが入ってきました。これによれば相変わらずイラン側は強行で国際原子力機関の申し入れを拒否したそうで、そのためにロンドン国際石油取引所の原油先物相場は1バレル=70・99ドルまで急騰し、史上最高値を更新したそうです。

今日はこの急騰する原油についてお話しをしましょう。この1バレルという単位はわれわれ日本人にはなじみのない単位で、英語ではbarrelと書きます。つまり、たる(樽)のことです。商業的に原油を採掘しはじめたのは19世紀半ば過ぎで、場所は米国のペンシルバニア州でした。この採掘した原油を運搬するのに使用したのが木の樽で、そこから原油の量の単位がバレルとなったのです。なお1バレルは159リットルですので、1リットル約53円で、市販の2リットルのペットボトル入りの水が約90~100円ですから、若干水より高い値段となっています。

石油の成分は化学的には炭化水素(水素と炭素の化合物)の集合体です。これに対して水は水素と酸素の化合物ですから、水は酸化水素ということになります。ただし、原油には硫黄や塩素などが微量に含まれており、原油などを燃やすと卵の腐ったような臭い(硫化水素)がします。原油は水と違って沸騰させても全て蒸発することはありません。ご存知のように水は100℃全て蒸発してしまいますが、原油の場合は炭化水素の集合体で単一の成分ではないので、まず加熱すると軽い成分がガスとして出てきます。この部分は例えばLPGとして回収されます。

Crude_oil_1

更に加熱しますと、次第に重い成分(沸点が高い)が蒸発して、それらを分離回収するとガソリンとかナフサ、あるいはケロシン(灯油)や軽油、重油、最後に蒸発せず残るのが残渣油あるいはアスファルトと呼ばれるものです。これらの成分(留分)の比率は原油の種類(サウジ原油とかイラン原油)で多少違いますが、ほぼ一定になっています。(左図参照)

この中で一番需要が大きいのがガソリンで、原油から出来るだけガソリンを作るために色々な工夫がなされてきております。それでも限度がありますから灯油の量をゼロにすることが出来ませんので、灯油の需要が少なくなる夏場では灯油の需要<供給となり、値段が下がるのです。この反対に冬場は灯油の需要>供給となり、価格が上昇します。

原油の埋蔵量は無限ではないので、将来原油が枯渇すると言われています。ただし、それがいつになるのか、何十年後になくなるのかは未だはっきりしていません。

一方、埋蔵量の多い天然ガスからディーゼル燃料を作るプロセスが開発され、例えばカタールではシェルやテキサコやモービルなどの石油業界大手が投資して大規模なプロジェクトを推進しております。このようにガスから石油を作る技術をGTL(Gas To Liquid)といっています。この技術によるGTLがでどれだけ原油の代替になるかははっきりしません。いずれにせよ、今後は原油や天然ガスなどのエネルギーの奪い合いになり、ますます国際社会はストレスに悩まされることは間違いないでしょう。

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2006年4月13日 (木)

気温と地力

地力と書いてちりょくと呼びますが、土地の生産力という意味です。

温暖化は気候変動や砂漠化などをもたらし、われわれの生活や経済活動にさまざまな影響を与えると予想されています。特に農業に与える影響は大きく、温暖化に伴う気温の上昇と共に収穫できる作物の種類が変わってきたり、害虫が発生しやすくなるために散布する農薬を増やさなければならなかったりします。反面、今まで寒冷であった場所で農業が可能となり、作物の種類や収穫量が増加することもあり得るでしょう。

アマゾンのような熱帯雨林では樹木が生い茂り、腐植土の原料となる落ち葉も多く、いかにも地力がありそうに思えるかもしれません。ところがこのような熱帯雨林の土壌(作物の育つ基盤となる)の厚さはわずか20cm程度しかないのです。これに対して日本などの温帯あるいは亜寒帯では数mの厚さとなっており、このために熱帯雨林では農作物の生産に向いていないのです。(培風館発行「反応工学、化学工学会監修」から引用しました)

Nature018

この理由は何でしょうか?

少し難しくなりますが、この理由は反応に及ぼす温度の影響が大きいことによります。土壌は堆肥や落ち葉や枯れ草が腐ってできた有機物と土(無機物)から出来ています。寒いところでは落ち葉や枯れ草がなかなか腐らず、ところによっては腐るまで数十年から数百年もかかる場合があります。そのために土壌は厚くなり、しかもミミズなどが繁殖してさらに地力が増すことになります。しかし、熱帯地域では温度が高いために、落ち葉や枯れ草が数年で腐ってしまい、せっかく出来た有機物が酸化されて水や二酸化炭素に戻ってしまいます。また、森林を伐採しますと土壌の上に直射日光が当たり、さら温度が上昇して腐食が進みます。また、雨が降ったり、川が氾濫しますと簡単に土壌が流されてしまいます。

熱帯の平均温度は最も寒い月で18℃以上、これに対して温帯では-3~18℃ですから、その両者の温度差は最大でも20℃程度です。しかし、このわずか20℃が腐食の速度に及ぼす影響は意外と大きいのです。この腐食する速度を化学反応における反応速度と考えますと、反応速度は絶対温度(温度℃+273)の指数関数(exp)で表すことができ、計算してみますと熱帯における腐食速度は温帯に比べると約5~6倍に達すると思われます。ちなみに10℃の違いでは約2倍となります。つまり、熱帯地域における温度条件が、土壌のもととなる落ち葉や枯れ草の腐食をより進行させ、結果的に地力を低下させている原因なのです。

Nature1 このことは森林伐採による土壌喪失と砂漠化、それらが二酸化炭素の増加と温度上昇に繋がり、ますます温暖化が進行するという負のスパイラル。これが最も恐ろしいシナリオになるかもしれません。地球の環境は微妙な平衡にあり、ちょっと崩れると大きくバランスを崩すといわれていますが、そうならないように祈るしかないのでしょうか。

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2006年4月12日 (水)

バイオマスは果たして地球温暖化の救世主となりえるのか?

バイオマスは「再生可能な、生物由来の有機性資源(木材や農産物)で化石資源(石炭や石油あるいは天然ガスなど)を除いたもの」と定義されています。(政府が策定したバイオマス・ニッポン総合戦略による )

つまり、バイオマスは農林業にて生産される製品であり、大気中の二酸化炭素と水を原料に太陽光による光合成反応により作られています。この農作物や木材などを燃やしても出てくる物質は二酸化炭素と水ですから、それらは再び農作物や木材の原料となります。特に温暖化の元凶である二酸化炭素は循環するだけで大気中の量を増やしませんので、バイオマスは「地球に優しい」とか「循環型社会の構築」に寄与すると言われています。ただし、国内では伐採した木材を集めるために時間と輸送エネルギーがかかること、あるいはバイオマスの持つ特性(水分が多く、発熱量が低いなど)のために、大規模な商業化は未だ実現していないようです。

わずか五十年前までは、どこの家庭でも薪や木炭などを燃料にして、毎日の食事の煮炊きや風呂を沸かしたり、冬の寒いときにはストーブに薪をくべて暖を取っていたものです。このように私たちの生活の中に深くバイオマスは入り込んでいたのです。

一方、歴史を遡りますと、われわれ人類にとってバイオマスは唯一のエネルギー源でありました。例えば、万里の長城(Great Wall)は中国にあるユネスコの世界遺産の一つであり、河北省山海関から甘粛省まで総延長2000Km以上に及ぶ大建造物です。この万里の長城は奏の始皇帝時代に大規模に整備されたとしており、その当時のこのあたりの高原の半分は森林で覆われていたと言われています。その後、明の時代になって現在われわれが見ることが出来る万里の長城が完成しました。この万里の長城はレンガで作られていましたが、レンガを焼くために大量の森林が伐採され、森林破壊が急速に進んだということです。この森林破壊は中国内陸部の砂漠化を促し、現在では遠く日本まで及ぶ黄砂の原因ともなっています。このように砂漠化をもたらしたものはわれわれ人間自身の営みであり、増加する人口を養うための農業の発展と、それに伴う農地の開拓や放牧などが原因だと思われます。

Greatwallday_1

また、世界文明の発祥の地であったメソポタミアでも、古い昔は森林と草原に覆われた豊かな土地であったと聞いています。しかし、現在は一部を除いて不毛の大地が広がっています。これも文明の発展とそれに伴う森林の伐採の結果であり、そして後に砂漠だけが残されたのです。

現在、世界各国でバイオマス資源の利用を推進しており、スウェーデンなどで行なわれている木質バイオマス発電、アメリカやマレーシアで行なわれている生分解性プラスチックの生産、ヨーロッパ中心のバイオディーゼルあるいはブラジルで行なわれているサトウキビを原料としたエタノール製造などが有名です。(テレビ東京のガイヤの夜明けでも紹介されています)

特にエタノールについては、国内でも輸送用バイオマス燃料として積極的に導入しようしており、製品アルコールの関税率の引き下げを決定しています。しかしながら、以下の理由によりエタノール輸入は少々怪しくなってきました。(日経エコロジー2006年5月から引用)

輸出余力があるのはサトウキビの最大生産国のブラジルだけだ。そのブラジルでは昨年、サトウキビの生産地で降水量が減り、不作に見舞われた。中略。サトウキビがエタノールよりも利が厚くなった砂糖の原料向けに流れ、エタノールの需給が逼迫している。

原油高騰によるガソリンの値上がりに引っ張られる形で代替燃料のエタノールも高騰し、課税前の日本への輸入価格は1年で約1.5倍に跳ね上がった。

サトウキビは非常に生長が早い植物で、刈り取った後に新しい芽が出て大きくなるので、手間のかからないバイオマスです。特にキューバなどのカリブ海諸国や南米のような豊富な労働力と安い賃金であれば、サトウキビの生産、そしてエタノール生産は飛躍的に拡大するする可能性があります。ただし、サトウキビ生産の拡大は森林の伐採に繋がる可能性があり、ガソリン代替燃料としてエタノールを作りたいということで、これらの諸国でサトウキビの生産が大きく増加する可能性があります。

Amazona200216113451km

万里の長城を建設するために多くの森林が伐採され、砂漠化が進んでいるで中国、それとは地球の反対側にあるブラジルでは、エタノール燃料を作るために森林を伐採し、なおも緑豊かなアマゾンが侵食されています。そのためか、昨年大西洋アルゼンチン沖にありえないミニハリケーンが発生したようです。まさに歴史は繰り返すのでしょうか?それほど人類は愚かなのでしょうか? 

地球シミュレータの計算によれば、百年後あるいはそれより早く(?)、アマゾン熱帯雨林にアラビア半島(ほとんどが砂漠)の面積を超える広大な砂漠が出現するという予測がなされています。

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