バイオマスは「再生可能な、生物由来の有機性資源(木材や農産物)で化石資源(石炭や石油あるいは天然ガスなど)を除いたもの」と定義されています。(政府が策定したバイオマス・ニッポン総合戦略による )
つまり、バイオマスは農林業にて生産される製品であり、大気中の二酸化炭素と水を原料に太陽光による光合成反応により作られています。この農作物や木材などを燃やしても出てくる物質は二酸化炭素と水ですから、それらは再び農作物や木材の原料となります。特に温暖化の元凶である二酸化炭素は循環するだけで大気中の量を増やしませんので、バイオマスは「地球に優しい」とか「循環型社会の構築」に寄与すると言われています。ただし、国内では伐採した木材を集めるために時間と輸送エネルギーがかかること、あるいはバイオマスの持つ特性(水分が多く、発熱量が低いなど)のために、大規模な商業化は未だ実現していないようです。
わずか五十年前までは、どこの家庭でも薪や木炭などを燃料にして、毎日の食事の煮炊きや風呂を沸かしたり、冬の寒いときにはストーブに薪をくべて暖を取っていたものです。このように私たちの生活の中に深くバイオマスは入り込んでいたのです。
一方、歴史を遡りますと、われわれ人類にとってバイオマスは唯一のエネルギー源でありました。例えば、万里の長城(Great Wall)は中国にあるユネスコの世界遺産の一つであり、河北省山海関から甘粛省まで総延長2000Km以上に及ぶ大建造物です。この万里の長城は奏の始皇帝時代に大規模に整備されたとしており、その当時のこのあたりの高原の半分は森林で覆われていたと言われています。その後、明の時代になって現在われわれが見ることが出来る万里の長城が完成しました。この万里の長城はレンガで作られていましたが、レンガを焼くために大量の森林が伐採され、森林破壊が急速に進んだということです。この森林破壊は中国内陸部の砂漠化を促し、現在では遠く日本まで及ぶ黄砂の原因ともなっています。このように砂漠化をもたらしたものはわれわれ人間自身の営みであり、増加する人口を養うための農業の発展と、それに伴う農地の開拓や放牧などが原因だと思われます。
また、世界文明の発祥の地であったメソポタミアでも、古い昔は森林と草原に覆われた豊かな土地であったと聞いています。しかし、現在は一部を除いて不毛の大地が広がっています。これも文明の発展とそれに伴う森林の伐採の結果であり、そして後に砂漠だけが残されたのです。
現在、世界各国でバイオマス資源の利用を推進しており、スウェーデンなどで行なわれている木質バイオマス発電、アメリカやマレーシアで行なわれている生分解性プラスチックの生産、ヨーロッパ中心のバイオディーゼルあるいはブラジルで行なわれているサトウキビを原料としたエタノール製造などが有名です。(テレビ東京のガイヤの夜明けでも紹介されています)
特にエタノールについては、国内でも輸送用バイオマス燃料として積極的に導入しようしており、製品アルコールの関税率の引き下げを決定しています。しかしながら、以下の理由によりエタノール輸入は少々怪しくなってきました。(日経エコロジー2006年5月から引用)
輸出余力があるのはサトウキビの最大生産国のブラジルだけだ。そのブラジルでは昨年、サトウキビの生産地で降水量が減り、不作に見舞われた。中略。サトウキビがエタノールよりも利が厚くなった砂糖の原料向けに流れ、エタノールの需給が逼迫している。
原油高騰によるガソリンの値上がりに引っ張られる形で代替燃料のエタノールも高騰し、課税前の日本への輸入価格は1年で約1.5倍に跳ね上がった。
サトウキビは非常に生長が早い植物で、刈り取った後に新しい芽が出て大きくなるので、手間のかからないバイオマスです。特にキューバなどのカリブ海諸国や南米のような豊富な労働力と安い賃金であれば、サトウキビの生産、そしてエタノール生産は飛躍的に拡大するする可能性があります。ただし、サトウキビ生産の拡大は森林の伐採に繋がる可能性があり、ガソリン代替燃料としてエタノールを作りたいということで、これらの諸国でサトウキビの生産が大きく増加する可能性があります。
万里の長城を建設するために多くの森林が伐採され、砂漠化が進んでいるで中国、それとは地球の反対側にあるブラジルでは、エタノール燃料を作るために森林を伐採し、なおも緑豊かなアマゾンが侵食されています。そのためか、昨年大西洋アルゼンチン沖にありえないミニハリケーンが発生したようです。まさに歴史は繰り返すのでしょうか?それほど人類は愚かなのでしょうか?
地球シミュレータの計算によれば、百年後あるいはそれより早く(?)、アマゾン熱帯雨林にアラビア半島(ほとんどが砂漠)の面積を超える広大な砂漠が出現するという予測がなされています。
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